インド南部バンガロール近郊のマイソールで、「医療の価格破壊」に挑戦する病院がある。
ナラヤナ・ルダヤラヤ(Narayana Hrudayalaya)診療所では、プレハブの建物に空調はなく、また手術後の基本的ケアを患者やその付き添いに教育し、自分でさせるなどの工夫により、特に高額であることで知られる心臓外科手術をわずか800ドルから提供している。
「今日の医療分野はサービス業とも言えるほどの著しいメニューの充実を見ている。治せない病気はほぼないと言っても過言ではない。ただ、そうした先端医療を受けられる経済的余裕のある人は、世界で10パーセントにも満たない。」
同病院の設立者で、今や世界一有名な心臓外科医のひとり、デヴィ・シェッティ(Devi Shetty)氏。
先端医療を少しでも多くの人に届けるため、例えば患者の家族や見舞いに来る人に4時間ほどの看護研修を実施し、包帯の取り替えなどの簡単な手当てをできるようにすることで、看護の必要性を最小限に抑え、院内には空調をつけずに自然の換気システムに頼り、エレベーターや特別な防火設備も要らないよう病院の建物は平屋建てのプレハブ造りとしてコストを最小限に抑えている。
毎日30件以上の心臓外科手術が実施されているという、このマイソール施設のほか、オディシャ州ブバネシュワルや西ベンガル州シリグリ(Siliguri)にも同様のクリニックを建設する予定としている。
また手術代は所得に応じて無料にすることもある。
シェッティ氏のこの取り組みは中東の放送局アル・ジャジーラ(Al-Jazeera)などが独占取材するなど世界中に知られるところとなり、その病棟はどんなに遠くても命のともしびを頼ってやってくる、低所得の農民や労働者などで常に埋まっている。
少しでも医療費を安くするために、人工心臓弁などを一括で大量購入するなどの工夫をしている。
WHOの統計によれば、インド政府が国民の医療費補助に拠出している予算はGDPのわずか4%に留まり、アフガニスタンよりも低水準であるとされている。
民間の医療保険も乏しく、ほとんどの人が医療費を基本的には自腹で支払っている。
シェッティ氏のモデルはそうした「すき間」を埋める存在として浮上している。
例えば現在、ナラヤナ・ルダヤラヤ病院は海外進出先として、多くの住民が高額治療のために渡米しているというケイマン諸島や、アフリカ諸国を視野に入れており、今後5年で同院を3万床規模にも拡大したいとしている。
「現在、インドはじめ世界に存在する医療関連の規制構造、政策、そして事業戦略は間違っていると申し上げていい。我々は全世界で、救えるはずの残り90%の人々全員に届けられる医療を目指している」シェッティ氏。